世界三大漁場の一つ、三陸沖から豊富な海産物がもたらされ、日本における遠洋漁業の重要な基地である漁港を持つ海洋都市、気仙沼市。一年を通して多種多彩な水揚げを誇りますが、その量が連続日本一を記録している魚を知っていますか。長く突きだした吻(ふん)が印象的な「メカジキ」は、地元の人たちにとって昔から身近で、特別な海の味覚です。その魅力を、様々な視点から皆様にご紹介します。
メカジキは、スズキ目・メカジキ科に分類されるカジキの仲間で、メカジキ科唯一の現生種。カジキ類の中ではとても大きく成長する魚で、かつ獰猛な性質を持っていることが分かっています。特徴はやはり、「吻(ふん)」と呼ばれる前方に突きだした部位でしょう。剣のように鋭く尖った形状をしているので、漁の際は船上で切り落としておくのが通常です。
温かい海域に分布し、多くは中・南太平洋に生息。肉食性で、寿命は15歳くらいと考えられています。大きいものは、全長5メートル、体重400キロを超えることも。飼育するのが難しいため、生きた状態を水族館で見ることはめったにないでしょう。メカジキの眼は、典型的な深海向け。その大きな眼で、貪欲にエサを探して捕食します。水揚げされたもののなかには吻の先端が磨り減ったものも多いですが、海底の砂を掘ってカニや海老を捕食していると考えられています。
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カジキ類は水面近くを泳ぐ魚を追いかけて捕食しますが、メカジキは深海にも適応しているので、イカや深海魚なども食べて成長します。長く伸びた「吻」をエサとなる小魚にぶつけて気絶させたり、鋭い刃で切り裂いたりして捕まえます。
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メカジキを漢字で書くと「女梶木」「目舵木」などとなりますが、この「舵木(梶木)」という言葉は船の用材を指し、凶暴な性格ゆえに舟板を突き通すという意味で“ 梶木通し” と呼ばれたことから名付けられたようです。学名の種小名では「Gladius(グラディウス)」となりますが、これは古代ローマ時代の軍団兵や剣闘士によって用いられた剣のこと。英語名は「Swordfish(ソードフィッシュ=剣魚)、Billfish(ビルフィッシュ=嘴魚・しぎょ)」、イタリア語やドイツ語、中国語でも刀剣を意味します。スペイン語では「Emperador(エンペラドール)」と呼ばれ、“皇帝”の称号を得た魚類になっています。
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メカジキの眼は、典型的な深海向け。その大きな眼で、貪欲にエサを探して捕食します。水揚げされたもののなかには吻の先端が磨り減ったものも多いですが、海底の砂を掘ってカニや海老を捕食していると考えられています。
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メカジキは、年間を通して水揚げがありますが、夏場、主に突きん棒漁で収穫されるものは“夏メカ”と呼ばれ、脂のりが穏やかであっさりとした味わいが特徴です。10月~3月に水揚げされる“冬メカ”は、その身にたっぷりと脂を蓄えており、切った包丁がすぐに使い物にならなくなるほど。濃厚な旨みを楽しむことができます。
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生存に適した水温は18~22℃で、生息可能なのは5~27℃と幅広いのが特徴。そのため、マッコウクジラのように温度差のある海の表層と深海を行き来できます。魚類でこれだけの温度差を行き来するのはまれ。人間で言えば、夜は沖縄、昼は旭川で生活するようなもので、環境変化の適応能力はずば抜けて高いことが分かります。
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成魚になるのは3歳からで、寿命は15歳以上。成長すると、体長は4 ~ 5メートル程度になります。気仙沼市魚市場に水揚げされたメカジキのなかで最大を記録したのは、2006年8月25日に第36寿々丸(北海道船籍/大目流し網)の約400キロです。
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バショウカジキやクロカジキ(クロカワカジキ)とともに驚異的な速さで海の中を泳ぎ、最速は時速100キロに及びます。これは、マグロの時速80~90キロ、カツオの時速60キロを超えるスピード。筋肉に生じた乳酸を中和する能力が、脊椎(せきつい)動物のなかでトップクラスなのがその理由です。メカジキはカジキ類の中で最も丸い体をしているため、上下の移動や深い場所での生活が得意です。
まだ、朝日が昇らない暗闇のなかで、気仙沼市魚市場はすでに活気づいています。漁船から水揚げされたメカジキは、重さを計り、品質ごとに選別して並べられます。100キロを超す大きな魚体が整然と連なる光景は、実に壮観です。
気仙沼は、メカジキの水揚げ量が日本一。
2014年の気仙沼市魚市場の水揚げ全体では、数量で3%、金額で13. 4%を占め、主要な魚種の一つとなっています。
2014年の国内における生鮮メカジキの水揚げ量は約2992トンに対して、気仙沼市魚市場の生鮮メカジキ水揚げ量は約2140トン。これは、全国の72%のシェアを誇り日本一です。入札を終えたメカジキの約9割は、市内6社の流通加工業者が流通を担い、主に首都圏を中心に全国各地へ届けられます。
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全国シェア72%
気仙沼市魚市場の2014年の生鮮メカジキ水揚げ量は、全国の魚市場72%のシェア。冷凍魚を含めると54%のシェアを占めます。
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水揚げ2,300t
東日本大震災前は 3,000t台だった水揚げ量が激減。その後、徐々に回復していき、2013年からは2,300t台をマークしています。
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水揚げのピークは10月~3月
漁期は通年で、10月~翌3月に良質なものが数多く水揚げされますが、気仙沼のメカジキは、夏でもマグロほど身の質を下げないのが特徴です。三陸沖の恵まれた漁場が、脂のりや味の深みを与えています。
地方卸売市場気仙沼市魚市場
- ■開設者/気仙沼市
- ■卸売業者/気仙沼漁業協同組合
- ■施設面積/42,329平方メートル
- ■岸壁延長/1,000メートル
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■汚水処理施設/処理能力:650トン
処理方法:活性汚泥法 - ■場内海水/処理方法:オゾン滅菌 紫外線滅菌
2階見学デッキより、場内の見学が可能です。札入れが行われる6:00~8:00の間が見頃。6~11月頃のカツオのシーズンは、昼以降も入船・水揚げが行われることがあります。休場日があるので、事前にホームページでご確認ください。
http://www.kesennuma-gyokyou.or.jp/気仙沼メカジキの2つの漁法
突きん棒漁
漁船の先に立ち、三叉の銛“突きん棒(つきんぼう)”を構える「突き手」。見張り台の高みから魚影を探し、突き手が射やすいように舵を操る「舵取り」。この2人の息の合ったコンビネーションこそが、この漁の成果を決めます。
延縄漁
「幹縄(みきなわ)」と呼ばれる長いロープに、「枝縄(えだなわ)」と呼ばれる短いロープを一定の間隔でつなぎ、それぞれの枝縄の先には餌と釣り針を設置。それを海に沈めて、マグロやメカジキなどに食いつかせる仕掛けです。釣針にエサをつけて流すのに4時間、休憩をはさみながら、引き揚げるまで10~12時間要します。
気仙沼市における発展の歴史は、海と港から切り離すことはできません。気仙沼漁港を中心とした漁業や水産加工業をはじめ、造船業などが長らく経済をうるおしてきました。
気仙沼でカジキ類の漁獲が増加したのは、戦後、マグロ延縄漁が発展し、同じ仕掛けで様々な魚が獲れるようになってから。一尾あれば多くの人のお腹を満たすことができるため、漁船の乗組員が帰港した際、自宅や近所に持ち帰る〝分けざかな〞として好まれたそうです。そのため徐々に消費量も増え、多彩な家庭料理が生まれました。
漁師の仕事は、実に過酷なもの。出港すると、近海船で1か月、遠洋船で1年あまり、洋上で過ごさなければいけません。荒天で大きく船が揺れたり、波をかぶったりすることもあるでしょう。メカジキのような大型の魚を相手にすれば、それだけ危険性も高くなります。だから、出船を見送る気仙沼の人たちは、航海の安全と大漁を祈りながら、腕がちぎれんばかりに手を振るのです。
漁業が盛んな気仙沼ですが、近年では漁師の高齢化と後継者不足が問題となっています。失われつつある港の活気を取り戻すため、これまで関係者のみで行っていた「出船送り」に一般の人も参加できるようにしたのが、気仙沼つばき会です。「だって、漁師さんは気仙沼のヒーローですから」と、メンバーの小野寺紀子さんは語ります。
地元を大切に思うたくさんの人たちが、気仙沼漁師たちの背中を押しています。そして、メカジキの食文化も、地域の人々の応援によって支えられています。